京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻食品生命科学講座 生命有機化学分室

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研究内容

研究概要

生命有機化学とは、生物が生きているという現象(生命現象)を、有機化学的手法を用いてダイナミックかつ精密に解明するという研究分野である。生物に作用して一連の生化学反応を引き起こす物質(生理活性物質)は生命の維持に不可欠なものであると同時に、生体反応を解析するうえで有効なツールとなりうる。従って、生理活性物質の研究は、生命有機化学において重要な位置を占める。本研究室では、主に下記3課題の研究を行っている。

天然物由来の新規抗がん剤の分子設計

海洋動物フサコケムシに含まれるブリオスタチン1は、副作用の少ない抗がん剤シーズであり、アルツハイマー病やエイズの治療薬としても有望である。しかしながら、その作用機構が未だに明らかになっていない上、構造が複雑であるために合成が困難であり、十分量供給できないなどの問題がある。そこで、合成が容易なブリオスタチン等価体を海洋天然物(アプリシアトキシン)の骨格を利用して開発し(ATX単純化アナログ)、それらの作用機構の解明と各種医薬品としての最適化を進めている。

 

抗HIV活性をもつ多環性テルペノイドの全合成研究

生薬や健康食品として利用されてきた植物より、近年、pre-schisanartaninやlancilactone C 等の抗HIV活性を示す多環性テルペノイドが単離されている。これらの天然物は正常細胞に毒性を示さないため、医薬品のシードとなりうる。そこで、生物活性発現に重要な構造の解明を目的として、これらの複雑な天然物の合成研究を展開している。Lancilactone C については世界で初の化学合成に成功し、真の構造を明らかにした。

 

アミロイドβオリゴマーの化学合成と新規治療薬の開発


オリゴマーの最小基本単位(2および3量体)の
推定構造

アルツハイマー病の原因物質である42残基のアミロイドβペプチド(Aβ42)の会合体(オリゴマー)の立体構造を、核磁気共鳴法やX線結晶解析法を用いて調べている。当研究室により独自に提唱されたAβ42の「毒性配座理論(Glu22, Asp23でのターン構造により毒性オリゴマーが形成される)」に基づいて、オリゴマーのモデル化合物(2および3量体)を合成するとともに、それらに対する立体構造特異抗体を作成し、新しい治療薬(ワクチン療法)ならびに診断薬(サンドイッチELISA)への応用を目指している。

核酸アプタマーは、標的分子に対する高い結合能と選択性を持ち、人工酵素としての役割も期待される新しい機能性分子である。DNAやRNAオリゴヌクレオチドからなる核酸アプタマーは、標的分子に対する分子進化実験から得られる。Aβ42の毒性オリゴマーに対する核酸アプタマーを開発し、アルツハイマー病の正確かつ迅速な診断法の確立を目指す。さらに、画像診断薬への応用を目的として、得られたオリゴ核酸の低分子化を行う。